三重県情報公開審査会 答申第85号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の部分開示決定を取消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成11年6月8日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った下記公文書の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が下記公文書3の請求に対して、該当公文書として県と漁業協同組合連合会及び漁業協同組合(以下、「組合等」という。)が締結した漁業影響補償契約書(以下「本件対象公文書」という。)を特定し、そのうちの契約金額の部分を非開示とした9月9日付け部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
実施機関は、当初の開示請求に対し、6月21日付けで決定期間を延長し、さらに8月5日付けで再延長の措置をとった。
なお、実施機関は、下記公文書1については開示決定を、下記公文書2については不存在を理由として非開示決定を、それぞれ9月9日付けで行った。
記
- 県下水道部が建設、下水道公社が管理運営する浄化センターの建設後の環境に対する影響等の追跡調査結果
- 同施設が沿岸漁業に与えた被害等、影響の有無が分かる文書
- 漁協への補償について分かる文書
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第2号(法人情報)及び第5号(行政運営情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
本件対象公文書は流域下水道事業の実施に伴い、浄化センターからの放流水により漁場海域に与える影響補償について、実施機関と該当組合等との間で締結された文書であるが、非開示とした契約金額を開示することにより、組合等の生産・販売額が類推でき、組合等の事業活動に対し、競争上不利益を与えるおそれがあると考えられる。また、契約金額を開示すると、今後他地域での浄化センター整備に際して漁業補償の交渉を行うにあたり、交渉の遅延等行政運営に著しい支障を生じるおそれがある。
よって、条例第8条第2号及び第5号に該当し、契約金額については非開示が妥当である。
なお、本決定における部分開示理由は、条例第8条第5号(行政運営過程情報)であるが、非開示とした契約金額を開示することにより、組合等の事業活動に対し、競争上不利益を与えるおそれがあると考えられる。よって、条例第8条第2号(法人情報)にも該当するので、部分開示理由の追加をする。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
実施機関は、契約金額が公表されると類似する他事業における漁業補償への影響が考えられ、結果、県の行う同種の事業に影響を及ぼすとの判断により、金額を非開示としたものと考えられるが、漁業補償に支出されたのは公金であり、また、国によって公表されている「公共事業補償基準」によるものであれば補償額は同基準によって比較的容易に類推することが可能であり、非開示としなければならない理由とはならない。さらに、契約金額を非開示とすることは、その算出にあたり不明朗な加算や付帯条項の介在に対する疑惑を招く要因となり、同種事業への県民の疑惑を招くことにつながると考える。
5 審査会の判断
実施機関は、契約金額を開示すると、組合等の事業活動に対し、競争上不利益を与えるおそれがあることから条例第8条第2号(法人情報)に該当するとともに、今後の行政運営に支障が生じるおそれがあることから第5号(行政運営情報)に該当するので、部分開示が妥当であると主張している。
なお、実施機関は本決定で第5号(行政運営情報)に該当するとして部分開示としたが、審査会での説明等で第2号(法人情報)にも該当するとして部分開示理由を追加したいとしている。部分開示理由の付記が行政手続きの一環として条例上規定されているにもかかわらず、異議申立ての段階で部分開示理由の追加を無制限に認めると、非開示理由の付記を求めた条例の趣旨が没却され、信義に反する結果となる。したがって、異議申立人の攻撃防御の機会を実質的に奪うような理由の追加は許されないと解すべきである。
しかし、本件事案の場合、十分異議申立人に意見陳述の機会が付与されているので、本件事案について再度異議申立てと再決定が繰り返されることなく、紛争の一回的解決が可能となり、迅速な最終決定に資すると考えられるので、これを認めるものとする。
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
なお、本件異議申立ては、改正された三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号)の施行前になされた処分にかかるものであるため、改正前の条例に則して判断する。
(2)第2号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものが記録されている公文書は非開示とすることができると定めたものである。
(3)第2号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書は、流域下水道事業の実施に伴い、浄化センターからの放流水により漁場海域に与える影響補償について、実施機関と該当組合等との間で締結された文書である。非開示とした契約金額を開示することにより、組合等の生産・販売額が類推でき、組合等の事業活動に対し、競争上不利益を与えるおそれがあると、実施機関は主張している。しかしながら、組合等の生産・販売額は事業報告書にも記載されており、水産業協同組合法上、組合員及び組合の債権者は閲覧を求めることができるとされている。法律上、第三者に対してまで閲覧に供する規定はないが、組合等が極めて公的な性格を有する機関であるという実態をかんがみれば、事業報告書にも記載されている組合等の生産・販売額といった情報は、そもそも非開示とすべき性格のものとはいえず、契約金額を開示すると組合等に競争上不利益を与えるおそれがある、との実施機関の主張は認めることができない。
よって、本号には該当しないものと判断する。
(4)第5号(行政運営情報)の意義について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も、非開示とすることができるとするものである。
(5)第5号(行政運営情報)の該当性について
過去の契約金額を開示すると、今後他の地域で予定されている浄化センター整備事業において漁業補償交渉を行うにあたり、補償交渉の遅延等行政運営上著しい支障を生じるおそれがあると、実施機関は主張している。
しかしながら、漁業補償額については、しかるべき根拠に基づき、個々の組合等の生産状況に応じて算定されるものであり、過去の他地域に対する漁業補償額を開示することによって、将来の交渉に著しい支障を生じるとは認められない。また、補償は公金によって支出されており、当然開示するべきものであると考える。
よって、本号には該当しないものと判断する。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
11.10.8 | ・諮問書受理 |
11.10.8 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
11.11.22 | ・部分開示説明書受理 |
11.12.6 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
12.4.18 |
・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第108回審査会)
|
12.5.16 | ・審議 ・答申 (第109回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |