三重県情報公開審査会 答申第87号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった別紙1の公文書の部分開示決定のうち、別紙2で審査会が開示と判断した部分については、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成11年12月16日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「ゴルフ場開発事業者が計画している松阪市内及び一志町内のゴルフ場開発に関し事業が遅れている理由が分かる一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成11年12月27日付けで行った別紙1の公文書(以下「本件対象公文書」という。)の部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、本件対象公文書は、ゴルフ場の開発を計画した事業者が、開発許可を受けるため、ゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱(以下「ゴルフ要綱」という。)第8の規定に基づき実施機関に提出した開発事業設計協議申出書及び設計協議申出内容変更申出書である。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第2号(法人情報)及び第5号(行政運営情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
(1)本件事案のゴルフ場開発事業については、開発区域が都市計画法の定める区域外のため都市計画法に基づくものではなく、ゴルフ要綱に基づく設計協議申出書の提出であり、法的拘束力はなく行政指導によるものである。
(2)前回上野のゴルフ場の事案(平成11年8月2日付け答申第75号)は、既に都市計画法に基づき開発許可も受けており工事も開始していたが、本件事案は現在書面等の不備事項を事業者に通知し補正するよう指示している段階で、県は事業の承認はしておらず、工事は始まっていない状態である。
(3)ゴルフ要綱では、申請から何年以内に工事を開始しなければならないという期間の制限がないため、当初の申請から長期間経過しているという理由だけで、ゴルフ場開発を承認しないということにはならない。
もちろん当初の申請(平成2年)から長期間経過している状態が好ましいとは言えない。県として当該事業者の事業実施の意思を確認する必要があると判断し、今年の5月にヒアリングを実施したところ、事業者の事業遂行の意思がある旨確認しており、異議申立人が主張する地元住民への事業の中止の説明は事業の一時凍結の意味と解する。
(4)条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
今回非開示としたものは、本件対象公文書の添付書類である「残高証明書」及び「融資証明書」であり、当該情報は企業の内部情報や事業活動に係るもので、開示することにより当該法人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められることから、本号に該当するものである。
また、これらを開示することが、事業活動によって生ずる危害から他人の生命、身体を保護するために必要であるとも、違法又は著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために必要であるとも認められない等、法人内部の情報を開示する根拠にはならず、公益性確保の観点からの開示には該当しない。
(5)条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
ゴルフ要綱の一部改正(平成9年2月20日)により、「残高証明書」及び「融資証明書」については、設計協議申出書への添付は不要となり、事業者に対して当該申出書から削除するよう指示を出している。このため、削除を指示したものを開示することは、事業者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解、協力を得ることができなくなったり、今後必要な情報を収集することができなくなるおそれがあると認められることから、本号に該当するものである。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
(1) 本件事案と同種の事案で既に三重県情報公開審査会は公開すべきとの答申(平成11年8月2日付け答申第75号)があり、実施機関は開示したにもかかわらず本件対象公文書の一部を開示しないのは不当である。
(2) 本件事案の2つのゴルフ場について、開発事業者は地元住民に対しては事業の中止を伝えており、利害関係者(当初計画の開発区域内の共有者や小作人)は、著しく法的に不安定の状態におかれている。
(3) ゴルフ要綱の法的不備により、事前協議の打ち切りの規定がないため、いったん申請をした事前協議は、半永久的に続くことになるが、これは極めて不合理である。
(4) 資金計画の情報を企業秘密を理由にいつまでも隠し続けるのは、違法な行政を覆い隠すための方便である。本件対象公文書は、平成2年度及び平成6年度のもので、いずれも「時のアセス」の考え方からしても公開するのが当然であり、公開しても何ら法人の競争上の地位に影響を与えない。また、不動産登記簿謄本では、乙区欄に資金提供者(金融機関)の名前が出ているのだから、その資金計画の内訳を公表しても、何ら法人の競争上の地位に影響を与えない。
よって、本件対象公文書は公開すべきである。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例第1条によると、本条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
なお、本件異議申立ては、改正された三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号)の施行前になされた処分にかかるものであるため、改正前の条例に則して判断する。
(2)条例第8条第2号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
また、本号ただし書は、企業等の社会的責任及び公益性確保の観点から、法人等又は個人の事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体及び健康を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため、開示することが必要であると認められる情報が記録されている公文書は、本号本文に該当する場合であっても、開示することができるという趣旨である。
(3)条例第8条第2号(法人情報)の該当性について
(ア) 本件事案の状況
実施機関の説明によると、本件ゴルフ場に係る開発事業設計協議申出書等の申請は平成2年及び6年に提出され、現在書面等の審査中で事業承認まで至っていない。よって、工事は開始されていないが、本件部分開示決定(平成11年12月27日)までに長期間経過している。
また、以前の同種のゴルフ場開発事業(平成11年8月2日付け答申第75号)は、都市計画法に基づく開発許可申請であり、既に許可され工事を開始していたが、本件事案は、ゴルフ要綱に基づくものであり、現在書面等の審査中で事業承認はしておらず、工事は開始されていないとのことである。
(イ) ゴルフ場開発事業の資金計画
本来、一般に法人等の特定の事業に関する収支計画及び資金計画は、当該事業に関する財務計画であって、法人等は内部情報として管理しており、外部に公表されることを欲しないものであり、それが開示されると当該法人等の資金調達力や経営戦略が明らかとなる情報である。その中でも、企業の預金残高を証明する残高証明書や企業間の契約等で取り決めた融資証明書などは、一般に外部の者が知り得ない情報である。したがって、これらの情報が開示されると当該法人等の競争上の地位を害し、法人等に著しい不利益を与えるものであるということができる。
しかしながら、一般的にゴルフ場開発事業のような大規模な開発事業の場合、これに伴い自然環境及び地域住民の生活環境の維持に対し悪影響を及ぼすおそれがあるため、事業者の事業遂行能力や信頼性が問題となるところである。そのうえ、前記のとおり本件ゴルフ場に係る開発事業設計協議申出書等の申請は、平成2年及び6年に提出されたまま長期間放置されており、事業者の事業遂行能力に疑問を抱かざるを得ない事実がある。また、事業者は、当該ゴルフ場の計画地内の地元住民に対しては事業の中止を説明しているにもかかわらず、県に対しては事業継続の意思を表示するなど当該事業者の信頼性についても疑念を持たざるを得ない事実がある。
したがって、本件については、資金計画等が本号ただし書ハ(イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上開示することが必要であると認められるもの)に該当すると認められる余地がある。
そこで、以下の個々の情報について判断する。
(イ)-1「残高証明書」のうち、金融機関名、科目(取引の種類、種別、種目)及び残高(金額)
これらは、一般に事業者の金融機関との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であり、本号に該当するということができる。
しかし、本件事案について、当該情報は、平成4年及び6年時点という過去のものであり、開示されることによる法人への影響は軽微であること、また、上記(イ)の後段で述べた事情を考慮すると、本号ただし書ハに該当するものとして開示すべきである。
(イ)-2「残高証明書」のうち、口座番号(店番、口座番号)
これらは、一般に事業者の金融機関との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であり、本号に該当するということができる。
また、当該情報を開示する公益性もなく本号ただし書イ、ロ、ハのいずれにも該当しないため非開示が妥当である。
(イ)-3「融資証明書」のうち、融資元法人名、融資金額及び融資使途
これらは、一般に事業者の他の法人との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であり、本号に該当するということができる。
しかし、本件事案について、当該情報は、平成4年及び6年時点という過去のものであり、開示されることによる法人への影響は軽微であること、また、上記(イ)の後段で述べた事情を考慮すると、本号ただし書ハに該当するものとして開示すべきである。
(4)第5号(行政運営情報)の該当性について
実施機関は、ゴルフ要綱の一部改正により、「残高証明書」及び「融資証明書」については、設計協議申出書への添付は不要となったため、事業者に対して当該申出書から削除するよう指示を出しており、それを開示することは、事業者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解、協力を得ることができなくなったり、今後必要な情報を収集することができなくなることから、本号(行政運営情報)に該当すると主張しているが、上述のとおり、本件事案は条例第8条第2号ただし書ハに該当し開示すべきであるから本号の該当性について判断するまでもない。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙3審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
本件対象公文書
1 (平成2年度)ゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱第8の規定に基づく「開発事業設計協議申出書」(平成2年12月27日受付)のうち、
- 開発事業設計協議申出書(表紙)
- 「3.事業計画書 3)資金計画」のうち「(1)事業に要する経費」
- 「3.事業計画書 3)資金計画」のうち「残高証明書」及び「融資証明書」
- 「3.事業計画書 14)工程」
・・・文書1
2 (平成6年度)ゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱第8の規定に基づく「設計協議申出内容変更申出書」(平成7年2月8日受付)のうち、
- 設計協議申出内容変更申出書(表紙)
- 「3.事業計画書 3)資金計画」のうち「資金計画表及び事業収支表」
- 「3.事業計画書 3)資金計画」のうち「残高証明書」及び「融資証明書」
- 「3.事業計画書 15)工程」
・・・文書2
3 (平成8年度~11年度)松阪市内及び一志町内のゴルフ場開発事業における「事業者ヒアリング復命書」
・・・文書3
※ なお、上記公文書のうち、1の①②④、2の①②④及び3については、原決定(平成11年12月27日付け都計第44-9号)で、実施機関は全面開示している。
別紙2
別紙1(本件対象公文書(文書1~3))のうち実施機関が非開示とした情報と審査会の判断
実施機関が非開示とした情報 | 審査会の判断と根拠 | |||
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文書1 及び 文書2 |
③3.事業計画書3)資金計画の 「残高証明書」のうち |
金融機関名 | 開示 | 2号ただし書ハに該当 |
科目(取引の種類、種別、種目) | 開示 | 2号ただし書ハに該当 | ||
口座番号 | 非開示 | 2号ただし書ハに該当しない | ||
残高(金額) | 開示 | 2号ただし書ハに該当 | ||
③3.事業計画書 3)資金計画の 「融資証明書」のうち |
融資元の法人名 | 開示 | 2号ただし書ハに該当 | |
融資金額 | 開示 | 2号ただし書ハに該当 | ||
融資使途 | 開示 | 2号ただし書ハに該当 |
別紙3
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
12. 1.13 | ・諮問書受理 |
12. 1.19 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
12. 2. 8 | ・部分開示説明書受理 |
12. 2.16 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
12. 8. 4 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第112回審査会)
|
12. 9.11 | ・審議 ・答申 (第114回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学経済学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科講師 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。