三重県情報公開審査会 答申第173号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った部分開示決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年1月9日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「県内の高速道路建設にかかる仮設用道路・仮設用施工ヤード・仮設用建物敷地のための農地の一時転用許可に関する全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成16年1月23日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、農地法第5条(一時転用)に基づく許可申請の際に提出された土地一時使用等賃貸借契約書(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
○条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書は、民間事業者と個人との間に締結されたものであり、これに記載されている金額、補償額については、公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を侵害するおそれがあり、個人情報に該当する。
また、異議申立人が主張するように「指定仮設」かどうかはそもそも農地法第5条に基づく許可の審査対象ではなく、申請書類にもその記載を求めていない。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から、実施機関が非開示とした情報は既に公にされている情報であり非開示情報には当たらないため、実施機関の決定は条例の解釈・運用を誤っていると主張する。
土地賃貸借契約書記載の金額及び補償額については、異議申立人の開示請求によって国レベルで全面開示された「公共補償基準」に定められた基準により算定されているか確認する必要があり、公共工事の性格から、対象地権者への補償額の算定に差があれば不公正であり、かつ、算定基準を大幅に下回る価額であれば不当であり公序良俗に反する。したがって、同基準に基づいた請負工事費への加算が工事費の積算基準で定められている「指定仮設」分の借地契約については、全面開示されるべきである。
また、これらの農地転用に係る情報は、市町村の農業委員会において審議されるが、この審議内容を傍聴することが可能であり、議案書や事項書などは各委員や傍聴者に配布され、既に公開されている情報であるから、個人情報であっても非開示とされる情報ではない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシ-等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシ-保護のため非開示とすることができる情報として、個人に関する情報であって個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めている。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシ-保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、非開示にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものについては、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
異議申立人は、実施機関が非開示とした情報は、市町村の農業委員会での審議内容を誰でも傍聴することができ、また、事項書や議案書が配布されているので、全面公開されている情報であると主張している。この点について当審査会が調査したところでは、確かに市町村の農業委員会は公開されているが、そこで配布される事項書や議案書は、審議事項、申請地の所在、地目、面積、譲渡人(賃貸人)の住所、農地(耕作)面積、譲受人(賃借人)の住所、転用目的(転用計画)などであり、審議自体もこれらの情報に関する内容であるので、実施機関が非開示にした情報は既に公にされている情報であるとまでは認められない。
また、本件対象公文書の中で実施機関が非開示とした金額及び補償額は、土地の賃貸借契約を結んだ個人が受け取る賃料等であり、これらは個人の私生活上のプライバシー性が高い個人に関する情報であると認められる。そして、本件対象公文書は、民間事業者と個人との間で自由な意思に基づき作成されたものであって、異議申立人が主張するように、補償額の算定に差が生じるおそれがあったとしても、それは個人の利害に関する問題に留まり、開示すべき公益性が高いものであるとは言えない。
したがって、対象公文書の中で実施機関が非開示とした情報は本号ただし書に該当せず、非開示が妥当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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16. 2.16 | ・諮問書の受理 |
16. 2.18 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
16. 3.10 | ・非開示理由説明書の受理 |
16. 3.11 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
16. 4.28 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (第197回審査会)
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16. 5.26 | ・審議 ・答申 (第199回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。