伊勢茶の振興
伊勢茶の歴史
茶の木は、西暦800年ごろ、中国に渡った最澄や空海が日本へと持ち帰ったのが始まりとされていますが、この時はあまり普及せず、1191年ごろ、栄西禅師が中国の宋から茶種を持ち帰り、それを明恵上人が宇治・伊勢・駿河・川越等に植えて広めました。
三重県では、900年(延喜年間)の初めごろに現在の四日市市水沢町の浄林寺(現在の一乗寺)で茶樹が栽培されていた記録があり、また、明恵上人が茶種を植えたのが伊勢川上であったことから、三重県の伊勢茶は古い歴史をもっていることがわかります。 そののち、文政・文化年間(1804~1829)ごろ、常願寺住職の中川教宏がお茶の生産を薦め、幕末から明治初期にかけてお茶の輸出が盛んになった時には、伊勢茶は海外貿易の重要な役割を担いました。
三重県は、現在も伊勢茶の品質向上を目指して栽培を続け、全国第3位の生産量を保っています。
本県における茶業
伊勢茶の全国的地位
本県産茶の全国的な地位についてみると、栽培面積、荒茶生産量は静岡県、鹿児島県に次ぐ全国第3位のシェアをもつ主要生産県です。また、特産のかぶせ茶は全国第1位の地位にあり、全国シェアの約56%と高いウエイトを占めています。
また、近年需要が高まっている加工用原料茶についても、荒茶生産量全国第1位で、全国シェアの約40%を占めています。ただし、関東の狭山茶(埼玉県)、玉露の宇治茶(京都府)など全国のブランド産地の茶と比較すると、「伊勢茶」は他府県産の銘柄茶の原料用茶として出荷されることも多く、今後、流通・消費段階で「伊勢茶」のブランド化を確立することが重要な課題となっています。
栽培面積・荒茶生産量・生葉・荒茶産出額の全国概要(主産県)
栽培面積 (令和2年度) |
荒茶生産量 (令和2年度) |
生葉・荒茶産出額 (令和元年産) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
|
面積 (ha) |
比率 | 府県名 | 生産量 (t) |
比率 | 府県名 | 金額 (億円) |
比率 |
全国 |
39,100 |
100.0 |
全国 |
69,800 |
100.0 |
全国 |
972 |
100.0 |
1.静岡県 |
15,200 |
38.9 |
1.静岡県 |
25,200 |
36.1 |
1.鹿児島県 |
252 |
25.9 |
2.鹿児島県 |
8,360 |
21.4 |
2.鹿児島県 |
23,900 |
34.2 |
2.静岡県 |
251 |
25.8 |
3.三重県 |
2,710 |
6.9 |
3.三重県 |
5,080 |
7.3 |
3.三重県 |
66 |
6.8 |
4.京都府 |
1,560 |
4.0 |
4.宮崎県 |
3,060 |
4.4 |
3.京都府 |
66 |
6.8 |
5.福岡県 |
1,540 |
3.9 |
5.京都府 |
2,360 |
3.4 |
5.福岡県 |
35 |
3.6 |
6.宮崎県 |
1,330 |
3.4 |
6.福岡県 |
1,600 |
2.3 |
6.宮崎県 |
27 |
2.8 |
7.熊本県 |
1,170 |
3.0 |
7.奈良県 |
1,490 |
2.1 |
7.埼玉県 |
17 |
1.7 |
8.埼玉県 |
825 |
2.1 |
8.佐賀県 |
1,140 |
1.6 |
7.愛知県 |
14 |
1.4 |
9.長崎県 |
725 |
1.9 |
9.熊本県 |
1,120 |
1.6 |
9.佐賀県 |
13 |
1.3 |
10.佐賀県 |
705 |
1.8 |
10.埼玉県 |
754 |
1.1 |
10.奈良県 |
12 |
1.2 |
茶種別荒茶生産量の全国主産県概要(令和2年度)(単位:t)
せん茶 | かぶせ茶 | 番茶 | その他緑茶 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
府県名 | 生産量 | 府県名 | 生産量 | 府県名 | 生産量 | 府県名 | 生産量 |
全国 |
36,863 |
全国 |
2,245 |
全国 (主産県) |
21,608 |
全国 |
1,878 |
1.静岡県 |
15,013 |
1.三重県 |
1,250 |
1.静岡県 | 9,431 | 1.三重県 |
744 |
2.鹿児島県 |
14,100 |
2.奈良県 |
260 |
2.鹿児島県 | 8,400 | 2.鹿児島県 |
410 |
3.宮﨑県 |
1,752 |
3.福岡県 |
215 |
3.三重県 | 1,133 | 3.佐賀県 |
328 |
4.福岡県 |
1,200 |
4.京都府 |
164 |
4.奈良県 | 890 | 4.京都府 |
117 |
5.三重県 |
1,099 |
5.静岡県 |
132 |
5.京都府 | 825 | 5.福岡県 |
112 |
6.埼玉県 |
791 |
6.佐賀県 |
76 |
6.滋賀県 | 233 | 6.長崎府 |
77 |
7.大分県 |
609 |
7.鹿児島県 |
58 |
7.宮崎県 | 148 | 7.滋賀県 |
32 |
8.熊本県 |
586 |
8.熊本県 |
40 |
8.埼玉県 | 87 |
8.高知県 |
28 |
9.京都府 |
349 |
9.大分県 |
20 |
9.高知県 | 49 | 9.兵庫県 |
11 |
10.奈良県 |
260 |
10.滋賀県 |
16 |
10.茨城県 | 45 | 10.香川県 |
8 |
本県の伊勢茶と風土
本県は、北緯33゜70′から35゜25′の間に位置し、南北に細長い地形となっていますが、西北に鈴鹿山脈、大台山脈を背負い、東南は伊勢湾、熊野灘に面し、県下の大半の地域は年平均気温が14~15℃と温暖で、茶の栽培に必要とされる年降雨量1,500mm以上の地域では、ほとんどが茶の生産適地となっています。
また、本県における摘採時期については、以上のような地理的条件から地域による差はあるものの、おおむね一番茶は4月下旬から5月中旬、二番茶は6月下旬から7月上旬に摘まれており、全国的には遅場地帯の茶産地となっています。
伊勢茶の特徴
上記のとおり恵まれた立地条件の中で栽培され、生育が良好なため、葉肉が厚く、滋味濃厚で3煎目まで味や香気の変化がない特徴を備えています。
また、本県では10世紀初頭には茶の栽培が始まっており、その後、江戸時代には本県出身の商人が上方や江戸で幅広く販売を行うとともに、江戸時代末期からは輸出にも力が注がれ、外貨獲得に大きく貢献しました。このような古い歴史と伝統に培われた高い生産技術をもつうえに、近年では、主要産地の防霜ファンの整備もほぼ完了したほか、製茶工場の近代化や大型化が進むなど生産基盤も整備された中で、高品質茶が生産されています。
地域の特徴
茶の中心的な産地は、北勢地域と中南勢地域にあり、その他、県内各地(いなべ地域、津地域、志摩地域、伊賀地域)に小規模産地が点在し、伊勢茶産地を形成しています。北勢地域では、鈴鹿市、四日市市、亀山市の3市を中心に、鈴鹿山麓の黒ボク地帯の平坦地に茶園が広がっています。茶種については、せん茶、かぶせ茶が多く、最近では、てん茶やもが茶など新需要に対応した茶の生産も行われています。
また、南勢地域では、谷あいの傾斜地や、川沿いの平地を利用して良質茶の栽培が行われ、茶種は、大台町、度会町で煎茶が、松阪市(旧飯南町及び飯高町)で深蒸し煎茶が多く生産されています。
栽培面積
本県の栽培面積は、明治25年の4,419ha(統計開始年次)をピ-クとして、兼用茶園を中心に漸次減少を続け、大正末期から昭和初期のいわゆる農業恐慌時には1,400haまで減少しました。さらに昭和16年には、食糧増産のため、茶は不急作物に指定され、昭和22年には1,154haまで減少しました。
しかし、その後は昭和25~35年の間は輸出量の増加、昭和40年から経済の高度成長による需要の拡大や上質茶志向による茶価の上昇によって急激に回復し、昭和50年には3,920haに達しました。
しかし、50年代に入ると食生活の多様化や各種飲料の伸長により消費量は停滞から減少傾向に転じるようになり、昭和56年、57年の4,140haをピ-クにその後は微減傾向を続けています。令和2年の栽培面積は2,710haと、前年に比べ70ha減少しました。
茶優良品種の普及
本県優良品種による茶園(品種園)面積は、近年の防霜施設の普及及び製茶工場の近代化や大型化に伴って年々増加していますが、樹齢構成をみると、品種園においても30年生前後のものが多いため、茶樹の更新が課題となっています。
一方、県内の優良産地では大半の茶園に「やぶきた」が植栽されていますが、防霜施設の整備がほぼ完了したこともあって、摘採期間が短期集中化し、製茶工場の稼働率や労力配分に問題が生じています。このため経営スタイルに応じた、早生、中生、晩生の品種分散を進めていきます。
生葉生産
生葉生産量については、肥培管理技術の向上や防霜施設、特に近年における急速なファン整備率の向上による増収要因があるものの、栽培面積や消費量が漸減傾向にある中で、生葉生産量はほぼ横ばい状態が続いています。令和2年の生葉収穫量は、年間24,000tで、うち一番茶は10,600tを占めています。
茶期別生葉生産量(単位:ha、t、%)
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荒茶生産
荒茶生産については、栽培面積や消費量が漸減傾向にある中で、緑茶ドリンク用の下級茶生産が増加しましたが、近年はその伸びも頭打ち傾向にあります。
こうした中、令和2年は新型コロナウイル感染症の拡大に伴う影響等で市況が暴落したことから、特に二番茶を刈り捨てる茶農家もあり、過去最低の生産量となっています。
荒茶の流通
本県における現行の茶市場は、昭和33年に水沢茶農業協同組合が全国で初めての茶専門農協として設立され、市場を開設したのに始まり、昭和40年には亀山茶農業協同組合、昭和42年に鈴鹿農業協同組合で茶の市場取引が開始され、昭和47年には、鈴鹿農協の茶の取引所が三重県経済農業協同組合連合会の北勢茶センタ-として改組されるとともに、大台町にも経済連南勢茶センタ-が開設され、3組織4市場体制となった。その後、平成27年2月に水沢茶農業協同組合と亀山茶農業協同組合が合併し、新たに三重茶農業協同組合となり、2組織3市場体制となった。
各市場とも取扱量を伸ばしてきたが、近年、茶の生産量が伸び悩みの状況にあることに加え、生産資材の高騰と比べると茶価も低迷しています。荒茶移出依存県として、流通面から伊勢茶の銘柄化に資するため、伊勢茶推進協議会により茶市場の養成強化方策について引続き検討を加えているところです。
令和2年の3市場の取扱量は、約3,141tと県内荒茶生産量の62%となっていますが、1市場当たりの平均取扱量は、静岡、鹿児島等の主要産県と比べると少なく、全国平均に比べても規模は小さい状況です。
また、荒茶の一次出荷先をみると、全生産量の70%程度が県内の茶商に販売され、県外への移出先では、移出量の約40%が京都府を中心とする近畿地方へ、30%余りが愛知・岐阜県へ、約20%が静岡県等の関東地方へ移出されているものと推定されます。
茶生産額
令和元年の茶の生葉荒茶産出額は、生葉で42億円、荒茶で24億円、計66億円、生葉・荒茶の合計では、県全体の粗生産額1,106億円の6.0%を占め、米、鶏卵、肉用牛、豚、生乳に次ぐ第6位の位置にあります。