三重県獣害対策の基本的な考え方
三重県獣害対策プロジェクト
1 被害の現状と要因
(1)農産物被害の状況
農産物全体の被害金額は、平成23年(約4億9千7百万円)をピークに年々減少傾向にありますが、平成30年でも約2億3千3百万円の被害が発生しています。
被害金額は減少しているものの、農村地域では生産意欲の減退などから耕作放棄地を発生させる原因となっていたり、これまで被害が発生していなかったり軽微であった地域への被害の拡大などが見られています。
獣種別では、イノシシ:約1億2千4百万円、シカ:約4千4百万円、サル:約5千万円となっています。このほか、アライグマなどの中型動物による被害も見られています。
(2)狩猟・有害捕獲の状況
野生獣の捕獲には狩猟による捕獲と被害を防ぐための有害捕獲があり、平成27年度には、シカ23,570頭、イノシシ13,623頭、サル1,449頭が捕獲されています。
近年、被害増加による駆除ニーズの拡大などから捕獲頭数は、増加傾向にあり、特に、シカについては、狩猟期や捕獲頭数の規制緩和などから、捕獲数が増加しています。
また、狩猟者の高齢化が進んでおり、将来的に捕獲圧の維持が難しくなるものと考えられます。
(3)被害拡大の要因
獣害が拡大した要因として、大規模開発などにより獣類の生息環境が大きく変化したことや、里山やその周辺の農地における人間の活動が低下し、また、耕作放棄地の増加に伴い野生獣にとって里山周辺が生息しやすい場所になっていること、さらには、被害を発生させる個体数の増加(繁殖率の向上、死亡率の低下等)などが考えられます。
2 被害防止対策の現状と課題
(1)獣害につよい地域づくりの展開
以前の獣対策は、農林業者個人が侵入防止柵等の整備が中心でしたが、補助事業等の活用が進み、面的に被害の軽減を図るため、まとまった農地を囲う防護柵の設置が進められています。
しかしながら、設置が不適切であったり、統一的な整備ができていないこと、防止柵設置後の管理が不十分なことなどから、防護柵の効果が十分に発揮されていない状況が見られています。
また、獣害の増加要因である収穫残渣や未収穫果実の放置、耕作放棄地など日常の不注意や管理不足などについて、農林業者の認識不足なども依然として課題となっています。
このような状況を踏まえ、
の5つの活動を「獣害対策5ヶ条」とし、集落や地域全体で取り組む「獣害につよい集落づくり」を推進しています。
平成22年度末でモデル集落を53集落育成し、平成23年度から30年度では、獣害対策に取り組む集落を 442集落支援しており、鳥獣被害対策優良活動表彰を受けた集落も出てきています。
今後も、集落・地域での対策を進めるとともに、その活動の継続に向けた支援を進めていきます。
(2)市町における被害防止計画の作成及び実践
市町においては、地域からの要望に応じ、補助事業を活用した侵入防止柵の設置や、猟友会への委託を通じた有害鳥獣の捕獲を行っていました。
平成20年12月に「鳥獣被害防止特別措置法」が施行されて以降、獣被害への対応のため、県内の市町では被害防止計画(25市町:平成27年4月末時点)が作成され、侵入防止柵の設置や有害駆除の実施のほか、集落を単位とした自衛体制の整備や「獣害につよい集落づくり」をリードする人材の育成などの取組が実施されています。
(3)総合的な獣害対策の実践
県では、駆除や侵入防止柵の設置など従来の方法による獣害対策だけでは十分な効果が得られていないことから、ワイルド・ライフ・マネジメント(※1)の考え方に基づき、「被害対策」と「生息管理」を組み合わせた総合的な獣害対策を進めることとしています。
このため、県において、獣害対策の窓口の明確化(平成24年度に獣害対策課を設置)し、地域における支援体制の整備などの体制整備を行いました。
一方、総合的な獣害対策を進めるにあたって、狩猟者の確保や市町における捕獲・処理体制の整備が課題として残っています。
さらに、活力の低下が懸念されている地域においては、獣害対策の取り組みをきっかけに、農を中心とした地域の活性化や経済の発展を意識した取り組み展開もみられてきています。
※1 野生鳥獣のワイルドライフ・マネジメントとは、「生息地管理」「個体数管理」「被害管理」を状況に応じて組み合わせ、「人」と「野生動物」と「自然環境(生息地)」の関係を適切に調整することにより、共存を図る手法。
3 県の取組
県では、これまでの取組を踏まえ、
①「獣害につよい集落づくり」をより広域な取組として推進、
②侵入防止柵等の整備推進、
③市町における実施隊の育成及び活動の活性化、
④地域における捕獲体制の整備、
⑤獣害対策での地域ぐるみの取り組みから地域活性化の取り組みへの発展
などを進めることとしています。
4 今後の獣害対策の取組方向
(1)基本方針
野生獣との共生(棲み分け)を前提に、農林業被害の軽減に向け、「被害対策」と「生息管理」を組み合わせた総合的な獣害対策を関係機関と連携し実施するとともに、地域活性化の取り組みへの展開を進めます。
(2)活動の基軸
①獣害につよい地域づくり
・ 集落ぐるみによる獣害対策の展開
・ 獣害対策に取り組む集落の確保及び広域的な獣害対策の構築・展開
・ 獣害につよい地域づくりを支える人材(リーダー)の育成
②地域における捕獲力の強化(特定鳥獣保護管理計画の推進)
・ 市町における捕獲・処理体制の構築(実施隊等の設置など)
・ 捕獲者の育成及び捕獲技術の高位平準化
③生息環境の整備
・ 野生獣が生息しやすい森林環境づくり
④科学的根拠に基づく獣害対策構築に向けた調査・研究の展開
・ 有害鳥獣の生息数推計手法の開発(特定鳥獣保護管理計画の策定)
・ 獣害に関する集落カルテ作成システムの開発(集落分析の円滑化)
・ 広域獣害対策を構築するための獣害予報システム(仮称)の開発
・ 新たな害獣にかかる被害防止技術の開発
・ 大量捕獲に向けた捕獲技術の開発
⑤地域活性化に繋がる獣害対策の展開
・ 地域ぐるみの取り組みから、地域資源を活用した取り組みへの展開
・ 獣害が軽減された農地の活用推進
⑥総合的な獣害対策の推進に向けた体制整備
・ 対策の一元化と関係機関の役割の明確化