2007年度日本水産学会秋季大会講演要旨(2007年9月26日)
熊野灘で放流したブリ成魚の行動
久野正博(三重科技セ水)・阪地英男(中央水研)
1)目的
ブリは沿岸域における重要な水産資源で,古くから回遊や生態に関する調査が行われてきた。しかし,近年のブリ成魚に関する回遊調査は日本海側が中心で,太平洋側ではほとんど実施されていなかった。本研究では,2004年以降に太平洋側で初めて実施したアーカイバルタグを用いたブリの標識放流結果から太平洋沿岸におけるブリの回遊および行動を把握することを目的とした。なお,回遊については,平成18年度水産海洋学会研究発表大会で報告済みである。
2)方法
調査には熊野灘北部の志摩市片田沖の大型定置網に入網した個体を用いた。2004年3月に10個体(FL:77-82cm),2005年2月と3月に22個体(FL:73-93cm)のブリ成魚にアーカイバルタグを装着して標識放流調査を実施した。使用したタグはWildlife Computers 社製Mk9であり,1分毎の体内および体外の水温,水深,照度を測定した。海況データには人工衛星による海面水温画像や調査船によるCTDデータを用いた。
3)結果
2004年の放流群は725日後までに10個体すべてが回収された。2005年の放流群は22個体中15個体が回収されている。再捕場所は放流地点より西の熊野灘~四国沿岸であり,遠州灘以東で再捕された個体はなかった。照度データから推定された回遊範囲は伊豆半島周辺~四国周辺で,薩南海域に回遊したと推定される個体もあった。回収したデータからブリ成魚は,主に昼に潜り夜に浮上すること,秋季に水温躍層が深くなるのに合わせて遊泳水深が深くなること,産卵期である4~5月頃には急激なダイビング行動をすることが明らかになった。ブリの遊泳水深は海洋環境と密接な関係があることが示唆され,年による漁場への来遊量の変化,年代による回遊範囲の変化とも関連していると考えられる。