おさかな雑録
No.65 ヒョウモンダコ 2012年3月12日
ヒョウモンダコ 危険生物
水産資源育成研究課ではおよそ月に数度、アラメ等の海藻類やアワビ類等の有用水産生物を対象とした潜水調査を行っています。この調査では、殻の大きさが数mmのアワビ類の赤ちゃんを探索するなど、海底を目を凝らして注意深く探索しています。この調査中に、偶然珍しいタコに遭遇しました。
水深約10mの海底において目撃した個体
上の写真は2月に県内で撮影したものです。ヒョウモンダコは大きくても10cm程度の小さなタコで、水中で見かけるときにはたいてい頭のところの皮に突起のようなものを伸ばしています。海藻やエビカニ類などのまね(擬態)をしているのでしょう。姿だけではなく、歩き方などの行動も他の生物を真似することがあり、慣れないヒトであれば最初はタコと思わないような、リアルなカニの動きをしていることを目撃したことがあります。多くの調査中には、このような擬態をしたタコを発見することは、熟練している調査員でも難しいです。マスク内の狭い視野、水中の厳しい寒さ、流されないように体に仕込んだ大量のおもり、高い水圧やタンクからの極端に乾燥した圧縮空気など通常とは異なる海底で、わずか数mmの貝を探索しているのです。対象としている生物以外はほとんど目に入らないくらい集中しています。この写真は調査ポイントからポイントへの移動中に偶然発見したものでした。
さて、このタコについて特筆すべきはなんと言っても毒をもつことでしょう。唾液腺にフグ毒であるテトロドトキシンを持ち、噛まれるとテトロドトキシンを含んだ唾液が注入され非常に危険です。フグ類は毒を「食べられないようにする」ために用いていますが、ヒョウモンダコは餌(あるいは外敵)に対して使っています。
全体図(足を広げると約10cmでした)
上の写真は3月7日に三重県内で採集して実験室で撮影をしたもの。自然観察会等での注意喚起で使う写真を撮影するために、調査の合間に探索して発見した個体です。
ヒョウモンダコの特徴は、体表面のコバルトブルーの豹柄(豹紋)です。このタコは、危険を感じると瞬時に体色がオレンジっぽい茶色(下の写真)になり豹紋が明瞭になります。「触れると痛い目にあわせてやるぞ!」という警告を発しているのでしょう。見かけても絶対に素手で触らないでください。夏になると、海で遊ぶ機会が増えることと思います。美しいブルーの豹紋に誘われ、うっかり触ってしまうことのないように、観察会での指導者の方は特に子供たちに対して十分な教育をしていただきたいものです。
怒ると体色が鮮やかなオレンジ色に変化します(怒らせるために体を突っついてみました)
額の紋様も特徴的です
噛まれると危険と書きましたが食べてもいけません。何と言ってもフグ毒ですから・・・。
(2012年3月12日掲載 水産資源育成研究課)