海女がとるアワビ
初夏は三重県が誇る伝統的漁法である海女漁が盛んになる季節です。ちょうどアワビがおいしい季節でもあります。高価な食材ですが、アワビを一年に一度くらい賞味してほしいものです。冬から春に繁茂するコンブの仲間であるアラメやカジメなどをたらふく食べ栄養を体に蓄積したアワビの身にはグリコーゲンやコハク酸がたっぷり含まれています。
海中のアワビは岩にそっくり。大きな岩の舌や隙間からアワビを見つけ出すことも熟練した技が必要です。
磯のアワビの片思いと万葉集で詠(うた)われるなどアワビは片側にしか殻がない不思議な貝と思っている方もいるようですが、実はアワビは巻貝の一種です。巻貝の開口部が、極端に大きくなったものであると言えば、納得していただけるでしょうか?
さて、アワビの身を殻から外す際に適した家庭にある道具は、プラスチックのしゃもじです。右利きの方は左手にアワビを身が上、殻が下になるように持ち、右手に持ったしゃもじで、身と殻がくっついている部分を力を入れて剥がしましょう。アワビの殻の縁は鋭くなっているので、手を切らないように軍手をはめてください。
剥がした身から、内臓と縁のべらべらした部分や口の部分などを包丁で取り除き、たっぷりの塩でヌメリをこすり落として水洗いをします。これで下ごしらえ終了です。海女さんおすすめのアワビのおいしい食べ方は、「丸かじり」ですが、それはさすがに・・・とおっしゃる方は身を厚めの角切りにしましょう。薄切りにしてしまっては、旨味も歯ごたえも感じられなくなってしまいます。角切りのアワビの身を冷水に浸す水貝は、歯ごたえを最大限に引き出す食べ方です。甘味がぼやけてしまうおそれもあるので、水に浸すことはおすすめしません。
歯の悪い人、歯ごたえは重視しないという方におすすめなのは、アワビの「おろし」です。下ごしらえをしたアワビを、おろし金ですりおろしてしまいましょう。はじめて海女さんに教えてもらったときには「何たる暴挙!」と思ったのですが、すりおろすことでアワビの身の表面積が大きくなることでアワビの味を舌で感知しやすくなることから、アワビのおいしさを味わいつくすという点では最高の方法かもしれません。おろしたアワビにちょっとだけ醤油の風味をつけて箸で味わいながら食べると、磯の香りとふくよかな甘味が舌から口の中全体に広がり、目を閉じると磯の風景が目に浮かぶようです。韓国ではすりおろしたアワビをおかゆに入れるという食べ方があるようです。日本と韓国はともに海女文化が発達していますから、過去に食文化の交流も行われてきたのかもしれませんね。
アワビを増やす取組み
三重県沿岸における漁業の重要対象種となっていますが,現在の漁獲量は最盛期である昭和40年代の10分の1程度となってしまいました。また、日本だけでなく世界規模でアワビ類の減少傾向が続いています。
この原因としては、海女さんたちの高齢化による減少、温暖化の進行による海の森(藻場)の減少などが言われています。このため三重県では、アワビ類資源量の変動要因を詳しく調べるとともに,アワビ類の種苗放流事業を一層効果の高いものにするための研究に取り組んでいます。
三重県内のいくつかの漁場では、放流されたアワビが漁獲される割合などについての調査が行なわれてきました。この結果、漁獲される放流アワビは平均で10%に満たないものの、漁場によってはもっと高い割合で漁獲される場所があることが分かってきました。たくさんのアワビを県民の皆様にお届けするために栽培漁業センターの職員、試験研究機関の職員の指導のもと、海女さんや漁業組合の皆さんは少しずつ放流技術を高めています。
殻に緑色のマークがついていたら、その貝が陸上で育てられ、海に放流された証です。放流されたアワビは天然の親から採卵され3~4cmになるまで育てられ、その後自然の海で成長します。稚貝の時期に陸上水槽で育ったこと以外は、天然の海で育った天然アワビと全く変わりません。また、殻の緑色は薬品などによるものではなく、コンブ類等特定の海藻を主体とした餌による自然な発色です。天然アワビの殻の茶色い色は、殻を作るときに天然餌由来の緑色と赤色(赤い海藻や動物由来と考えられます)と混じって発色します。わざと赤い色を含まない(少ない)餌で稚貝を飼育すると、殻の色は緑色になるのです。
もし、天然のアワビを食べるときに殻に緑のマークを見つけたら、そのアワビを大切に育てた栽培漁業センターの職員やアワビを増やそうと努力している研究所の職員も思い出してくださいね。
(水産資源育成研究課)