マナマコ
陸上における冬は一年の中で最も色彩に乏しい季節ですが、海の中は大小さまざまな色とりどりの海藻類が茂り、鮮やかで華やかなお花畑のような景色が広がります。多くの海藻は一年のうちで海水の透明度が高い冬に最も繁茂します。冬に育つ海藻や珪藻類等をもりもり食べて成長し、おいしくなるのがマナマコ。マナマコには良質のたんぱく質をはじめ、多くの成分が含まれ、肝機能向上、利尿作用、補腎強壮効果があることなどが明らかとなっています。また、最近では、ナマコに豊富に含まれるサポニンという物質は免疫機能の向上、抗ガン作用を持つものとして注目を集めています。
三重県では冬に伊勢湾内ではナマコ・カキ桁網により、鳥羽以南の外海では船の上から網や引っ掛けを用いて漁獲するヒシ突きと呼ばれる漁法や、海女(海士)さんによる素潜り漁によって漁獲されています。
岩盤の上に生えた海藻類を食べているマナマコ(赤ナマコ)
マナマコのおいしい食べ方を海女さんにうかがうと、腹の部分を切って内臓を取り出し、口(写真では右側)の固い部分を取り除いた後、丸かじりするのが最もおいしいとのこと。しかし、歯に自信があり磯の香りになれたワイルドな人でないと難しいかもしれません。その代わり、5mm~1cmくらいの厚さにそぎ切りをして、二杯酢あるいは三杯酢でいただくのが最も手軽でおいしく食べられる方法です。このとき大根おろしを加えるのもよいでしょう。
柔らかく食べたい方は、そぎ切りにしたものを「軽く」蒸して下さい。日本酒を使った酒蒸しもおいしい食べ方です。このときすり下ろした蕪(かぶら)と一緒に蒸すこともよいでしょう。中華料理では干しナマコが有名ですが、一般的には入手が難しいうえ戻すのに長い時間がかかり味付けにも技術を要するので、プロの調理人に任せたほうが無難かもしれません。
水産物を調理する際の注意点です。魚以外の水産物(ナマコ、ウニ、貝、エビ、カニ、イカ、タコや生の海藻など)は”海水と同じだけの塩分が含まれている”ので、魚よりも塩分を控えめにしましょう。魚などの背骨のある動物(鶏や牛豚も含める)の肉に含まれる塩分は海水の3分の1程度です。
ナマコの種類
三重県で漁獲されるマナマコには色によって3タイプがあり、身が柔らかく生で食べられる赤ナマコ(上の写真)、若干小型で色が青~灰色をしている青ナマコ(左下)、干しナマコの原料として最近漁獲が増えた黒ナマコ(右下)に分けられます。これまで3種は同種とされてきましたが、最近の遺伝学的な研究からそれぞれが別種として分けられることとなるかもしれません。
(左) 青ナマコ (右) 黒ナマコ
ナマコの体には、筋肉のほかにも固くなったり柔らかくなったりする他の動物にはない特殊な結合組織があり、独特のしこしことした歯ごたえはこれによるものです。
筋肉は硬い状態を維持するのにエネルギーを必要としますが、この結合組織は一旦硬くなった状態には“留め金”のようなしくみを持ち、エネルギーを必要とせずに硬い状態を維持することができます。このしくみが未来の技術を支える新素材につながる可能性があるものとして注目され研究が進められています。この結合組織を持つ動物は棘皮動物と呼ばれ、ウニやヒトデ等5角形が基本形の生物です。一見ぜんぜん違う生き物のようにも思えますが、ウニの体を横に向けて殻を無くし長く引き伸ばすとナマコになり、同じような体のつくりであることが分かります。
生き物が何億年も長い時間をかけて進化して、体のしくみを変えてきた地球の歴史を思い浮かべながら、ナマコの独特の歯ざわりを噛み締めながら味わうのもナマコを楽しくおいしく食べる秘訣ではないでしょうか。
(企画・資源利用研究課)