伊勢湾に面した東海地方には古くからボラを様々に調理する食文化がありましたが、現在廃れつつあるのが残念でなりません。最近では、ボラに偏見すら持っている方が多いのではないでしょうか。水質のよくない場所で漁獲されたボラの身には若干臭いがあることで、ボラがおいしくないとのイメージが付いてしまったように思います。しかし、外海に面した水質の良い場所で育つ冬の大きなボラは、全くクセのないさっぱりとした脂の乗った白身でどのような料理にも柔軟に対応してくれるおいしい魚なのです。実際日本以外の東南アジア、イスラエルやアフリカでは重要な養殖対象魚となっています。
ボラは冬になると脂がのり始めるとともに、臭いも少なくなってきます。冬に丸々太ったボラは、目の回りが真っ白になりあまり目が見えなくなくなるとも言われています。比較的大きなボラが味がよいので、なるべく大きなボラを入手しましょう。上の写真のように漁獲されてすぐに首を折り、鰓や血を抜いてあるものが鮮度もよくおすすめです。また、背骨が大変太いので、3枚おろしにした身を調理に用いたほうがよいでしょう。調理法で何と言ってもおすすめしたいのがお刺身です。皮と身の接するところに鮮やかな赤い血合があり、薄く削ぎ切りにした白身の中央に赤いアクセントを添えています。この赤い色から、ぼらのお刺身のことを「日の出」と呼びます。血合とは言え、クセもなく白身にはない濃い味わいと白身の淡白な味のコントラストを楽しんでください。
皮を引いた切り身に塩コショウをして、衣をつけたフライにすると子どもの喜ぶ料理となります。また、濃い目の塩を振って1時間ほどしめた切り身を水洗いした後、味噌、砂糖、みりん、酒に1-3日漬け込んだ西京漬けもおすすめの調理法です。ボラの身はクセがなく弾力がある白身ですので、ほとんどどのような食べ方でもお楽しみいただけます。なお、冬にはボラの卵でカラスミを作るために漁獲された寒ボラの身の多くが卵だけ摘出されて廃棄されてしまうとのこと。もったいない話です。みなさん、偏見を捨てて、おいしい寒ボラのおいしさを正しく評価してほしいと思います。
なお、内臓を下ろしているときに出る幽門(ゆうもん)は「ボラのへそ」と呼ばれ、珍味として珍重されます。よく洗って塩焼きにするとしこしことした歯ごたえが楽しめます。