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平成25年07月16日

おさかな雑録

No.87 ブリの傷 2013年7月17日

思わず目が釘づけになる

 何気ない光景が、一瞬にしてある一点に注意を奪われてしまうような劇的な変化を遂げる時があります。私たち研究者にとって、そういう衝撃的な事件の一つに標識の付いた魚を見つけた時があげられます。なにせ、一度広い海へ放した魚が再び人の手にかかるということですから、その魚はきわめて貴重なデータとなるからです。ですから、標識に紛らわしい傷や寄生虫にも同じような反応をすることがあります。

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 ブリ 南伊勢町奈屋浦 平成25年6月17日撮影

この日も何気なくブリを測定しようと持ち上げた途端、腹の傷に目が釘付けになりました。

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 ブリ 南伊勢町奈屋浦 平成25年6月17日撮影

 肛門に近い、右腹側面に、人の指が2本入るくらいの穴が開き、その傷が治りかけています。こんな大きな傷がつき、そしてその傷が治りかけているということは、驚くべきブリの生態や生命力を示しているのかもしれません。しかしそれより気にかかったのは、「もしやアーカイバルタグの脱落した跡ではないか?」ということです。

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 ブリ 南伊勢町奈屋浦産 平成25年5月16日撮影

 こちらは測定のために購入したブリについていた傷です。肛門の周辺が大きく傷ついています。この傷はタグの脱落した跡ではないと考えられましたが、紛らわしいものと区別するために一応写真に収めておきました。なぜこのように傷に反応するのか。上にも書きましたが、アーカイバルタグの脱落ではないかと気になるからです。

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 ブリ 志摩市片田産 平成22年4月12日撮影

 そしてこれがアーカイバルタグの付いたブリです。私たちは市場で調査しているとき、いつでもこんな魚を探し求めています。

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ブリ 志摩市片田産 平成22年4月12日撮影

 上のブリは、おなかをメスで切り開き、アーカイバルタグを埋め込んで縫い合わせ、放流した魚で、放流後1年余りが経過しています。傷は驚くほどきれいに治っているのがお分かりいただけますでしょうか。この魚を含む放流群の結果については「ブリの再捕状況090317」ページを、放流の概要については「アーカイバルタグの放流」ページをご覧ください。

 さて、はじめに紹介したブリの傷ですが、アーカイバルタグは魚のやや左側を切開すること、切開の傷跡がないこと、傷がやや大きく、位置がやや前方であることから、アーカイバルタグの脱落ではないと考えられました。一方、これまでの調査結果から、タグが脱落したケースも確認されており、せっかく再捕されても、その時タグが抜けていたら本当にがっかりです。放流に携わってからというもの、自分が手術した魚が生き延びて再捕されますように、タグが脱落しませんように、と、毎日祈るような日々が続いています。 なので、お腹に穴の開いた、あるいはその跡のあるブリを見ると、思わず覗き込まずにはいられないのです。

(2013年7月17日掲載 資源開発管理研究課)

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